調べたことをまとめます

私たちが幸せを感じる理由|TED2004  ダン・ギルバート Dan Gilbert

今日は本ではなく、動画の紹介をします。アメリカの心理学者 ダン・ギルバート [1] のTED講義。

2019年現時点で1600万回再生。日本語字幕もほとんど合ってるので、大いに参考にしました。

www.ted.com

 

人類の誕生から200万年が経過し、脳の容量が3倍になったが、さらに前頭葉、そのなかでもとりわけ前頭葉皮質と呼ばれる新たな機能を手に入れたことで、人類は「疑似体験」ができるようになった。パイロットはフライトシミュレーターを使えば経験が無くとも操縦を学ぶことができる。


宝くじで3億円当選した人と、事故で下半身不随になった人の、1年後の幸福度を予想してみよう。おそらく高額当選者の方が幸せだと予想できるだろう。しかし実際のデータからは、両者の幸福度は同等であることが分かっている。
大きな衝撃を受けると、疑似体験機能は悪く作用する。これを ”Impact bias(衝撃偏向)” [2] という。大きな衝撃を受けたその後について心配する疑似体験の中では、事故の悪影響が実際以上に大きいと思ってしまうのだ。

 

大学に受かったり落ちたり、昇進したりしなかったり、人生のパートナーを得たり失ったり・・・人生の分岐点で”悪い”結果となったとしても、本人が思っているほど人間は衝撃を受けていないし、感情的にもなっていないらしい。実際最近の研究では、人生における最大のトラウマがその人に及ぼす影響について、3か月前以上に起きたものであれば、その人の幸せには影響を与えないことがわかっている。
なぜなら幸せは作り出すことができるからだ。これは心理的免疫システムが、自身が生きている世界が良いものであると考えられるよう、考え方を変えてくれるからだ。人間は、幸せは自分で作り出すものであるのに、見つけるものであると勘違いしがちだ。

幸福には以下の2種類ある。

・自然的幸福 : 欲しかったものが手に入った時の幸せ
・人工的幸福 : 手に入らなかった時に作り出される幸せ

後者は二流の幸福であるという信念が横行している。なぜならば、欲しいものが手に入ったとしても、入らなかったとしても、同じ幸せを感じられるならば、経済が回らなくなってしまうからだ。禅の僧侶で賑わうショッピングモールはそんなに儲からないだろう。

だが実際、人工的幸福は自然的幸福と同じくらい細部がリアルで、長続きする。

 実験的根拠をお話ししましょう。
6枚のモネの絵を渡して好きな順に並べてもらう実験を行い、実験後に3番目の絵を被験者にプレゼントした。
後日、時間が経ってから同じように6枚の絵のランク付け実験をしてもらった結果、被験者は3番目だったはずの貰った絵を、1番や2番にランク付けするようになった。

その後まったく同じ実験を前向性健忘者(暴飲の結果、新しい記憶を作り出せない病気。多くはコルサコフ症候群と呼ばれる人々)のグループにしたところ、彼らも同様に貰った絵のランクが上がった。彼らは自分が貰った絵がどれか分かっていない(記憶できない)にもかかわらず、である。

 

世の中にはこの心理的免疫システムを上手く使える人がいるが、上手く使える状況というものも存在する。
一方で、自由というのは、意思決定をし、その意思を変える魅力的な能力であるが、それは人工的幸福の敵でもある。人工的幸福は変わらない未来を受け入れる手助けをしているからだ。

ハーバード大学のフォトグラフィーコースで、このような実験を行った。何日間かに渡って色々な場所で写真を撮影してもらい、その中から2枚のベストショットを選ばせる。その後次のように伝える。「1つは課題として提出して下さい。もう1つはあなたにあげよう。」
ここで2つのグループを作る。1つ目の学生グループには「手元に残す1つの写真を選んで、もし後日 気が変わったら4日間は交換できるから」といい、他方のグループには「この場で決めてもらい、交換はできない」とした。
後日、手元に残った写真がどれほど気に入っているかアンケートしたとろ、交換不可能だったグループの学生の多くは手元の写真に大いに満足していたが、一方 自由意志があるはずの交換可能だった学生は、自分の絵に不満があり、更に交換期間が終わった後もその写真を好きになれなかった。「この写真でよかったのだろうか?いい方を手放してしまったかも?」という考えに押しつぶされてしまったからだ。
自由意志は人工的幸福と相性が悪いのだ。

 

最後にもう一つ実験。これから、先ほどのフォトグラフィーコースを履修する学生に対して、「最後に2枚のうちの提出する写真を、その場で選ぶコースと、4日間考える猶予のあるコース、どちらを選択したいか?」を尋ねた。すると、66%の学生が、4日間の猶予がある「不満を持ってしまう」コースを選択したのだ。彼らは人工的幸福が生まれる環境を知らないからである。

 

シェイクスピアにこのような言葉がある。

“Tis nothing good or bad. But thinking makes it so”
「物事の善し悪しは存在しない。思考がそのように見せるだけだ。」

素敵な詩だが、100%正しいとは思えませんね。

より考える価値のあるアダムスミスの言葉を紹介しましょう。

 人類の生活における苦悩や無秩序の多くは、永続的状況とそれ以外の状況の差異を過大評価しているところに帰依するようだ。いくつかの状況は疑いなく他より好ましいものであるが、それらのどれも慎重さや公平さの規律を犯すまでの情熱をもってして追い求める価値はない。また未来の心の平穏さは自らの愚行の記憶による恥、自らの不公平な行いへの恐怖や後悔によって乱されるべきではない。

 つまり、物事に善し悪しはあるから、ひとつの未来を選び抜く力は持っておくべきだ。けれどもその選択が異なる未来の差異を過大評価することによって強引で拙速なものになるとリスクが生じる。望みは限られたものであれば楽しむことができる。けれども望みは制限なしだと我々は嘘をつき、人を騙し、ものを盗み他人を傷つけ、本当に価値のあるものを犠牲にする。


最後にスピーカーが伝えたいのは次の通り。
私たちの願望や心配は自らの内で作り出されるために、どちらも大げさなものとなり、その結果、何かを選んだ後も、常に別の何かを探し求めているということだ。

 

参考文献:

[1] スピーカーの自己紹介ページ
https://www.ted.com/speakers/dan_gilbert

[2] Impact bias – Wikipedia (日本語版ページは無し)
https://en.wikipedia.org/wiki/Impact_bias