調べたことをまとめます

誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性  田中潤、松本健太郎

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結局人工知能(AI)って何なの?という疑問について、音声認識エンジン開発などを行う人工知能の研究者が定性的に答えた本。

 

人工知能の定義は専門家の中でも意見が分かれるところだそうで、筆者は年代毎に定義していくことを提案している。ちなみに今は第三次AIブームで、2018年現在の人工知能とは、ディープラーニングそのものであるとのこと。また誤解しやすいが、人工知能とは「知能」の再現であって、「人間」の再現ではない。現在の人工知能の最先端であるディープラーニングも、人間の脳を模倣している訳ではないらしい。
正確に言えばディープラーニングは人間の脳のうちの一部の機能であるニューラルネットワークを模倣した数学モデルを土台としているものの、そもそも人間の脳がどう機能しているかは分かっていない部分が多い。そのため脳の機能を解明するよりも、ディープラーニングの強みである「マシンパワー」と「完全な記憶」を活かして人間に勝とうとしている。

 

ディープラーニングの強みは画像認識で、画像認識の精度だけで言えば人間よりも高かったりするらしい。ただ名詞では理解できても動詞で理解できなかったり、文章読み取りでは「レール」を「レ - ル」と認識するような意味を成さないような間違えもする。数値や言葉で表現できないものも認識できないので、常識的な前提や雰囲気や感情は読めない。そして厄介なのは、画像認識で猫を犬と誤認識した時などに、「なぜ間違えたのか?」を説明できず、正解or不正解どちらなのかしか分からない。計算が複雑過ぎて、どこで間違えたのかを人間が確認できないのだ。
またディープラーニングを含む機械学習全般の弱みとして、与えられた学習データからしか学習できず、エイブラハム・ウォールドの第2次世界大戦時の爆撃機の損傷データ解析 [1] の時のような今あるデータから飛躍して考えることもできない。

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帰還した爆撃機の損傷個所を調べてマッピングした図。損傷した個所の装甲を厚くするのではなく、"帰ってこなかった爆撃機の損傷個所"、つまりマッピングされていない個所を補強する必要がある。

そして人工知能に仕事を奪われるのか?という話では、”忖度”を必要とする職はディープラーニングでは代用できず、そのため意外にも事務作業は難しいらしい。(事務作業では空気を読んで仕事に優先順位を付ける必要があるため。) 筆者の考えでは「3大銀行のリストラの件は、超低金利政策による収益悪化で仕方なくリストラするのに、言い訳としてAIを使っているだけ。本当に現時点で3万人の雇用が奪えるAIが開発できていたら世界中で売れるレベルだ」としている。


他にも人工知能は「シンギュラリティがあって、ある日突然仕事が奪われる」イメージがあるが、実際は段階的に出来ることが増えていって、時間をかけてそれらが統合され、最後に仕事全体が代用されるだろうとのこと。例として、掃除ロボットは、最初はゴミを吸い取る”床掃き”しか出来なかったが、”床拭き”ができる物も出てきた。今後は段差や階段が登れるものが登場して、最後にそれらの機能が統合されて万能型の掃除ロボットができるだろう。
なぜこのような段階を経る必要があるのかというと、需要は一気には変わらないので、時間をかけてものが売れる市場をまず作り上げる必要があり、また技術もそれに付随して順に進歩していくためらしい。
そして自動運転に関しては、需要の問題だけでなく更に法整備や自動車保険、世間の認識などの問題があるため中々ブレイクスルーが起きる状況ではないようだ。

 

ロボカップという、1997年から毎年開催され、現在世界45か国から3000人の研究者が集まる競技大会がある。ここでは「2050年までにサッカー世界チャンピオンチームに勝てる自律型ロボットのチームを作る」という標準問題を掲げている。なぜ約50年先を目標としたかは、ライト兄弟1903年に有人動力飛行してからジェット旅客機が登場するまで50年、1940年代に電子式コンピュータ開発が始まってIBMのディープブルーがチェス世界チャンピオンに勝つまで50年。新しい技術が誕生してから実用化までには一般に50年かかる、という理屈。


そして2050年以降の高度にAIが発達した世界はどうなるのか。筆者の考えでは、人工知能によって人間は仕事を奪われるのではなく、仕事から解放されるらしい。

理由は、AIが仕事を奪っていって、奪われた人がそのまま失業者になると、その分需要が減るので生産も落ちてしまい経済が回らなくなる。とはいえ貨幣による経済体系は簡単には変わらないため、「労働の対価としてお金をもらう」という仕組みを変えるしかない。つまり経済を回すためにお金を配ることになる。(フィンランドや米カリフォルニア州ストックトンで実験的に導入されたベーシックインカムのような形) そうなると、配られた分のお金は使わないといけない、というようなルールができるかもしれない。つまり「お金を使う行為自体が労働」になるのだ。
労働と貨幣の組み合わせは、人工知能が進化する時代に向いていないと筆者は考えているそう。社会や組織に人工知能を合わせるのではなく、人工知能に社会や組織を合わせる必要があるのだ。

 

[1] Survivorship bias – Wikipedia (生存者バイアスの話。日本語版ページは無し)
https://en.wikipedia.org/wiki/Survivorship_bias#In_the_military