調べたことをまとめます

「行動経済学」人生相談室  ダン・アリエリー 櫻井祐子訳

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行動経済学の研究者ダン・アリエリーが2012年からウォール・ストリート・ジャーナル紙で連載した相談コラムを書籍化した本。

著者はデューク大学の心理学と行動経済学の教授であり、TEDで行ったプレゼンは780万回以上閲覧され、イグノーベル医学賞受賞歴もあるらしい。

 

内容は「転職したら幸せになれる?」「結婚する意味が分からない」といったことから「ワインの違いが分からない」「孫に会わせてもらえなくてつらい」「運がいい人っているの?」など比較的多くの人が持ちやすい悩みを紹介している。

そういう人間臭くて雑多な質問にたいして、行動経済学という理論を用い、客観的な視点で理路整然と(時には読む人が退屈しない程度にユーモアを交えつつ)回答しているので結構面白いし、ためになる。自分もこの本を書店で見かけた時、気になる質問だけ立ち読みしようと思ったら結局買ってしまった。

 

例えば前述の「転職したら幸せになれる?」に対して、まず不満の根本原因が本当に仕事にあるのかを考えるべきとした上で、それでも転職への迷いがちらつくなら3週間程度の長期休暇を取って、転職したいタイプの会社でボランティアするのを薦めている。というのも最初の目新しさが消えた時に仕事が面白いと思えるかどうかは、かなり長い試行期間を必要とするかららしい。ちなみに「今の職場に留まるか転職するかを考えるために3週間の休暇を取ることをもったいないと思うなら、愚痴を言うのをやめて今の会社で働き続けた方が良いよ」とのこと。

 

あと面白かったのは「ダイエットがつらい」「自分で決めた株式投資のルールを破りたい衝動を抑えるには」「自由意志って存在するの?」など意思に関する質問。

ダイエットに励んでいたはずなのに、深夜に大好物のケーキを見てしまった瞬間に優先順位がコロっと変わってしまう現象は、行動経済学では「現在志向バイアス」と言うらしい。

株式投資の話で言えば「やりたいことができ、それを取り消す自由があるとき、愚かな決定をしがちなのは明らかだ。自由を制限するのはイデオロギーに反するけど、意思決定に成約を設けることで長期的な目標を達成できるかもしれない」

3つ目の質問には「環境によって人の意思決定は大きく左右されるが、失敗の可能性を減らすように環境を整えることはできる。自由意志が宿るのはそこだ。自分たちの強みを活かし、より重要なこととして。弱みを克服するような方法で環境をデザインする能力にこそ、自由意思がある。」

 

その他に「食べ放題は何から食べれば投資収益率を最大化できる?」という質問には「人生で目指すべきは、誰かにとってのコストを最大化させることではなく、自分の楽しみを最大化させること」とし、「Netflixが映画のラインナップを1800本も減らし、代わりに良い映画を少し加えた。1800本の映画はきっと観ることも無かったけど、腹が立つよ」という質問には、損失回避の話を持ち出して回答終わりではなく、「Netflixを自宅のコレクションと思わないで美術館のようなものと考えるべきだ」とまで応えているのが良かった。

ちなみに「都心と郊外、どちらに住むべき?」では「人は結構上手く順応するけど、通勤地獄にはなかなか順応しないので、自宅から職場までの距離を重要決定ポイントと考えるべきだ」という正論ではあるが行動経済学に基づいているのかよく分からない回答もある。

 

最後に、結婚に関する回答も面白かったので2つほど紹介する。

「今の彼女と結婚するべき?」については「なるべく多く実験をこなすべきだね。実験には調べたい状況になるべく近い環境を作ることが重要で、今回の場合なら彼女のお母さんと2週間ほど一緒に過ごしてみると良いよ」

「結婚する意味が分からない。事実婚のまま幸せなら良いじゃない?」については著者が子供の頃、体表面の7割を覆う大やけどをし、3年間の入院生活を過ごした経験を紹介している。リハビリセンターで知り合ったデイビッドは、爆発物処理中に片目と片手を失い、足を負傷する大怪我を負っていた。彼には数ヶ月前から付き合っていたガールフレンドのレイチェルがいたけど、事故の後レイチェルから別れを切り出されたらしい。センターの患者の間では、怪我をしたから別れるなんて、レイチェルは不誠実で浅はかだ、と噂になった。この話から始まる筆者の意見は次の通りとなる。「レイチェルがひどいことをしたかどうかは分からないけど、二人の交際期間が長かったらレイチェルについての評価はもっと変わっていたかもしれない。もしくは二人が婚約していたり、事実婚だったら?結婚していたらどうだろう?そういった状況の違いによって評価が変わるようであれば、きみにとって結婚は意味のあることなのかもしれないね」

 

取り上げた回答はどれも内容を省略したもので、実際の内容はもっと分かりやすくてちゃんとしているので、少しでも気になったら、是非手にとって原文を確認してほしい。