調べたことをまとめます

誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性  田中潤、松本健太郎

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結局人工知能(AI)って何なの?という疑問について、音声認識エンジン開発などを行う人工知能の研究者が定性的に答えた本。

 

人工知能の定義は専門家の中でも意見が分かれるところだそうで、筆者は年代毎に定義していくことを提案している。ちなみに今は第三次AIブームで、2018年現在の人工知能とは、ディープラーニングそのものであるとのこと。また誤解しやすいが、人工知能とは「知能」の再現であって、「人間」の再現ではない。現在の人工知能の最先端であるディープラーニングも、人間の脳を模倣している訳ではないらしい。
正確に言えばディープラーニングは人間の脳のうちの一部の機能であるニューラルネットワークを模倣した数学モデルを土台としているものの、そもそも人間の脳がどう機能しているかは分かっていない部分が多い。そのため脳の機能を解明するよりも、ディープラーニングの強みである「マシンパワー」と「完全な記憶」を活かして人間に勝とうとしている。

 

ディープラーニングの強みは画像認識で、画像認識の精度だけで言えば人間よりも高かったりするらしい。ただ名詞では理解できても動詞で理解できなかったり、文章読み取りでは「レール」を「レ - ル」と認識するような意味を成さないような間違えもする。数値や言葉で表現できないものも認識できないので、常識的な前提や雰囲気や感情は読めない。そして厄介なのは、画像認識で猫を犬と誤認識した時などに、「なぜ間違えたのか?」を説明できず、正解or不正解どちらなのかしか分からない。計算が複雑過ぎて、どこで間違えたのかを人間が確認できないのだ。
またディープラーニングを含む機械学習全般の弱みとして、与えられた学習データからしか学習できず、エイブラハム・ウォールドの第2次世界大戦時の爆撃機の損傷データ解析 [1] の時のような今あるデータから飛躍して考えることもできない。

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帰還した爆撃機の損傷個所を調べてマッピングした図。損傷した個所の装甲を厚くするのではなく、"帰ってこなかった爆撃機の損傷個所"、つまりマッピングされていない個所を補強する必要がある。

そして人工知能に仕事を奪われるのか?という話では、”忖度”を必要とする職はディープラーニングでは代用できず、そのため意外にも事務作業は難しいらしい。(事務作業では空気を読んで仕事に優先順位を付ける必要があるため。) 筆者の考えでは「3大銀行のリストラの件は、超低金利政策による収益悪化で仕方なくリストラするのに、言い訳としてAIを使っているだけ。本当に現時点で3万人の雇用が奪えるAIが開発できていたら世界中で売れるレベルだ」としている。


他にも人工知能は「シンギュラリティがあって、ある日突然仕事が奪われる」イメージがあるが、実際は段階的に出来ることが増えていって、時間をかけてそれらが統合され、最後に仕事全体が代用されるだろうとのこと。例として、掃除ロボットは、最初はゴミを吸い取る”床掃き”しか出来なかったが、”床拭き”ができる物も出てきた。今後は段差や階段が登れるものが登場して、最後にそれらの機能が統合されて万能型の掃除ロボットができるだろう。
なぜこのような段階を経る必要があるのかというと、需要は一気には変わらないので、時間をかけてものが売れる市場をまず作り上げる必要があり、また技術もそれに付随して順に進歩していくためらしい。
そして自動運転に関しては、需要の問題だけでなく更に法整備や自動車保険、世間の認識などの問題があるため中々ブレイクスルーが起きる状況ではないようだ。

 

ロボカップという、1997年から毎年開催され、現在世界45か国から3000人の研究者が集まる競技大会がある。ここでは「2050年までにサッカー世界チャンピオンチームに勝てる自律型ロボットのチームを作る」という標準問題を掲げている。なぜ約50年先を目標としたかは、ライト兄弟1903年に有人動力飛行してからジェット旅客機が登場するまで50年、1940年代に電子式コンピュータ開発が始まってIBMのディープブルーがチェス世界チャンピオンに勝つまで50年。新しい技術が誕生してから実用化までには一般に50年かかる、という理屈。


そして2050年以降の高度にAIが発達した世界はどうなるのか。筆者の考えでは、人工知能によって人間は仕事を奪われるのではなく、仕事から解放されるらしい。

理由は、AIが仕事を奪っていって、奪われた人がそのまま失業者になると、その分需要が減るので生産も落ちてしまい経済が回らなくなる。とはいえ貨幣による経済体系は簡単には変わらないため、「労働の対価としてお金をもらう」という仕組みを変えるしかない。つまり経済を回すためにお金を配ることになる。(フィンランドや米カリフォルニア州ストックトンで実験的に導入されたベーシックインカムのような形) そうなると、配られた分のお金は使わないといけない、というようなルールができるかもしれない。つまり「お金を使う行為自体が労働」になるのだ。
労働と貨幣の組み合わせは、人工知能が進化する時代に向いていないと筆者は考えているそう。社会や組織に人工知能を合わせるのではなく、人工知能に社会や組織を合わせる必要があるのだ。

 

[1] Survivorship bias – Wikipedia (生存者バイアスの話。日本語版ページは無し)
https://en.wikipedia.org/wiki/Survivorship_bias#In_the_military

「行動経済学」人生相談室  ダン・アリエリー 櫻井祐子訳

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行動経済学の研究者ダン・アリエリーが2012年からウォール・ストリート・ジャーナル紙で連載した相談コラムを書籍化した本。

著者はデューク大学の心理学と行動経済学の教授であり、TEDで行ったプレゼンは780万回以上閲覧され、イグノーベル医学賞受賞歴もあるらしい。

 

内容は「転職したら幸せになれる?」「結婚する意味が分からない」といったことから「ワインの違いが分からない」「孫に会わせてもらえなくてつらい」「運がいい人っているの?」など比較的多くの人が持ちやすい悩みを紹介している。

そういう人間臭くて雑多な質問にたいして、行動経済学という理論を用い、客観的な視点で理路整然と(時には読む人が退屈しない程度にユーモアを交えつつ)回答しているので結構面白いし、ためになる。自分もこの本を書店で見かけた時、気になる質問だけ立ち読みしようと思ったら結局買ってしまった。

 

例えば前述の「転職したら幸せになれる?」に対して、まず不満の根本原因が本当に仕事にあるのかを考えるべきとした上で、それでも転職への迷いがちらつくなら3週間程度の長期休暇を取って、転職したいタイプの会社でボランティアするのを薦めている。というのも最初の目新しさが消えた時に仕事が面白いと思えるかどうかは、かなり長い試行期間を必要とするかららしい。ちなみに「今の職場に留まるか転職するかを考えるために3週間の休暇を取ることをもったいないと思うなら、愚痴を言うのをやめて今の会社で働き続けた方が良いよ」とのこと。

 

あと面白かったのは「ダイエットがつらい」「自分で決めた株式投資のルールを破りたい衝動を抑えるには」「自由意志って存在するの?」など意思に関する質問。

ダイエットに励んでいたはずなのに、深夜に大好物のケーキを見てしまった瞬間に優先順位がコロっと変わってしまう現象は、行動経済学では「現在志向バイアス」と言うらしい。

株式投資の話で言えば「やりたいことができ、それを取り消す自由があるとき、愚かな決定をしがちなのは明らかだ。自由を制限するのはイデオロギーに反するけど、意思決定に成約を設けることで長期的な目標を達成できるかもしれない」

3つ目の質問には「環境によって人の意思決定は大きく左右されるが、失敗の可能性を減らすように環境を整えることはできる。自由意志が宿るのはそこだ。自分たちの強みを活かし、より重要なこととして。弱みを克服するような方法で環境をデザインする能力にこそ、自由意思がある。」

 

その他に「食べ放題は何から食べれば投資収益率を最大化できる?」という質問には「人生で目指すべきは、誰かにとってのコストを最大化させることではなく、自分の楽しみを最大化させること」とし、「Netflixが映画のラインナップを1800本も減らし、代わりに良い映画を少し加えた。1800本の映画はきっと観ることも無かったけど、腹が立つよ」という質問には、損失回避の話を持ち出して回答終わりではなく、「Netflixを自宅のコレクションと思わないで美術館のようなものと考えるべきだ」とまで応えているのが良かった。

ちなみに「都心と郊外、どちらに住むべき?」では「人は結構上手く順応するけど、通勤地獄にはなかなか順応しないので、自宅から職場までの距離を重要決定ポイントと考えるべきだ」という正論ではあるが行動経済学に基づいているのかよく分からない回答もある。

 

最後に、結婚に関する回答も面白かったので2つほど紹介する。

「今の彼女と結婚するべき?」については「なるべく多く実験をこなすべきだね。実験には調べたい状況になるべく近い環境を作ることが重要で、今回の場合なら彼女のお母さんと2週間ほど一緒に過ごしてみると良いよ」

「結婚する意味が分からない。事実婚のまま幸せなら良いじゃない?」については著者が子供の頃、体表面の7割を覆う大やけどをし、3年間の入院生活を過ごした経験を紹介している。リハビリセンターで知り合ったデイビッドは、爆発物処理中に片目と片手を失い、足を負傷する大怪我を負っていた。彼には数ヶ月前から付き合っていたガールフレンドのレイチェルがいたけど、事故の後レイチェルから別れを切り出されたらしい。センターの患者の間では、怪我をしたから別れるなんて、レイチェルは不誠実で浅はかだ、と噂になった。この話から始まる筆者の意見は次の通りとなる。「レイチェルがひどいことをしたかどうかは分からないけど、二人の交際期間が長かったらレイチェルについての評価はもっと変わっていたかもしれない。もしくは二人が婚約していたり、事実婚だったら?結婚していたらどうだろう?そういった状況の違いによって評価が変わるようであれば、きみにとって結婚は意味のあることなのかもしれないね」

 

取り上げた回答はどれも内容を省略したもので、実際の内容はもっと分かりやすくてちゃんとしているので、少しでも気になったら、是非手にとって原文を確認してほしい。

日本でいちばん社員のやる気がある会社 山田昭男

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日本で一番休みが少ないのに給与は地域内トップレベルというホワイト企業、未来工業株式会社の経営論について創業者が語った本。

具体的にどれくらいホワイトかというと、年間休日140日+有給休暇最大40日、労働時間は一日7時間15分、残業もノルマもない[1]。岐阜県に本社を置きながら平均年収は600万円以上[2]。岐阜県の平均年収は東京都より約150万円低いので[3][4]、東京で言う平均年収800万円の企業だと考えるとかなり高い。年間労働時間を考えると時給もかなり高いだろう。更に「報・連・相」を禁止しており、社長が各部署に口を出さず、仕事の裁量を大きく社員に任せている。

 

なぜこのような経営が可能なのか。これを実現した社員のモチベーションをいかに上げるかという経営方針について、涙ぐましい努力と熱い哲学が書かれている。内容を簡単に紹介する。

 

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 そもそも、社員にやる気がないということの裏には“不満”がある。私は、その不満を一つひとつ消していくのが社長の仕事だと思っている。給料は安い、休みはない、何から何までがんじがらめの会社で働いていても楽しいはずはないし、そんな会社のために努力しようという気が起きてくるはずがない。だから、私ははずせる制約はできるだけはずそうと考えている。

 

日本の中小企業をみると、「社員を低賃金で長時間こき使ったほうがトクだ」と考えている経営者が少なくない。だが、本当にそうだろうか。中小企業には凡人が集まっている。ズバ抜けた能力をもっている者が多いわけでもない。その社員に不満をもたれたら、ただ給料をもらうために会社に来ているだけという状態になり、目も当てられない結果を招くことになってしまう。

 せいぜい、社員に不満をもたれないようにして、それなりにがんばってもらうしかないのではないか。

 

じゃあ、やる気を起こさせるにはどうするのか?社員にしてみれば、高い給料がいちばんだろうが、それには限度がある。儲けが減ったからといって給料を下げれば、社員は生活設計もできない。安定した給料を支払っていくことが最優先課題だから、給料は世間相場よりややよいぐらいの水準を目指すことになる。

それ以外に何ができるかといえば、それが労働時間の短縮というわけだ。それなら、みんなが頭を使って工夫すれば実現できるはずだ。

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ここで面白いのは、創業者が知ってやっていたのかは分からないが、ハーズバーグの理論を効率的に利用していることである。

「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」を簡単に言うと、人間には苦痛を避けようとする動物的な欲求と、心理的に成長しようとする人間的欲求の2つがあるという考え方である[5]。

 

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          図 ハーズバーグの二要因理論

 

この理論に当てはめて未来工業を見てみると、苦痛を避けようとする動物的な欲求は見事に満たされ、心理的に成長しようとする人間的欲求も恐らく満たされていることが推測できる。

「不満足」を招く要因

◎会社の方針と管理 → なるべく制約をはずすことを目標している

◎監督、監督者との関係 → 報連相禁止

◎労働条件、給与 → 休みは日本一、給与は安定して地域トップレベ

?同僚との関係 → 不明。だがこれだけ好待遇ならきっと良いはず

◎個人生活 → 労働時間が一日7時間15分なら個人生活も充実

 

「満足」を招く要因

◎責任、承認 → 報連相禁止で裁量が大きい

○達成、成長 → 不明だが、裁量が大きければ達成や成長も大きいはず

○仕事そのもの → 不明。だが「日本ではじめて」の製品を作ろうとしていることから、それなりにあるはず

?昇進 → 不明

 

 

ここまで見て、これだけ社員思いの経営をしていた創業者はさぞ人として立派なのだろう、と思うかもしれないが、この点に関しては全くそんなことはなく、むしろかなり奔放で酷いこともしている。

まず創業者は元々社長子息で、新卒で親の会社に入り、若い頃は会社で二番目に給料を多くもらっておきながら頭の中は劇団のことばかりだったようだ。(当時日本は演劇全盛期の時代だった)

地元の仲間と劇団「未来座」を結成し、座長兼舞台監督を務めた。午後4時には会社を抜け出して劇団へ行き、給料もほとんどつぎ込んでいたらしい。15年以上もそんな生活を続け、結婚しても変わらなかったため、とうとう親から勘当、会社をクビになっている。

クビになってからは劇団仲間で会社を立ち上げ、親の会社時代の得意先に売り込んでいたようだが、かなりえげつないやり方の営業もしており、「俺ね、クビになってしまってね、これしか売るものないけど、これ買ってくれないとメシが食えんのよ。ちょっとカバンの中見せようか、ロープ入っとんのよ。買ってくれないなら、ここでぶらさがるで・・・」という具合である。

 

やはり何かを成し遂げるには、野心というか、己を貫き通す力が必要なんだなぁ。

 

 

 参考資料

[1] 「日本一休みが多い会社」「創業以来赤字なし」未来工業の創業者死去 - withnews(ウィズニュース)

http://withnews.jp/article/f0140730007qq000000000000000W00a0401qq000010536A

[2] 未来工業の年収給料【大卒高卒】や20~65歳の年齢別・役職別年収推移|平均年収.jp

http://heikinnenshu.jp/kogyo/miraikogyo.html

[3] 東京都の平均年収や生涯賃金・年齢別年収推移・職業別年収|年収ガイド

http://www.nenshuu.net/prefecture/pre/prefecture_pages.php?todoufuken=%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD

[4] 岐阜県の平均年収や生涯賃金・年齢別年収推移・職業別年収|年収ガイド

http://www.nenshuu.net/prefecture/pre/prefecture_pages.php?todoufuken=%E5%B2%90%E9%98%9C%E7%9C%8C

[5] ハーズバーグの動機づけ・衛生理論 |モチベーション向上の法則

http://www.motivation-up.com/motivation/herzberg.html

松吉隆の 調性で読み解くクラシック 松吉隆

ヤマハ銀座店で音楽書ランキング2年連続1位として目立つ所に置かれていたベストセラー。題名にある通りクラシックを中心に、ひたすら「調性とは」を一冊丸々語ったアツい本。

作曲家はどうやって調を選ぶのか?なぜ長調は楽しくて短調は悲しいの?等のキャッチーな話が多く、音楽に詳しくない人でも(面白いかは別として)理解しやすい良書となっている。内容の一例を簡単に紹介する。

 

・調の選び方は使う楽器によって決まる

弦楽器はそれぞれの弦が完全5度の感覚で並んでいるため、バイオリンで言うならソラレミの4つの開放弦が生み出すト長調ニ長調などが演奏しやすい。開放弦を少し抑えれば良いので、#系の音は得意。

木管楽器では一番低い音を基音とするのでフルートやオーボエではハ長調が、クラリネットではイ長調変ロ長調などが吹きやすい。

金管楽器に至っては、元々は一番低い音の倍音しか出ないので「ド」の長さの管では「ドミソド」しか使えない。トランペットではハ長調が吹きやすい。(ただしそこに革新を与えたのがピストン(バルブ)機構であり、ピストンを押せば「ファ」や「ソ」になる管を作っておけば「ファラドファ」や「ソシレソ」が作れて、これらを合わせて「ドレミファソラシ」の音階が作れるようになった。)

 

このような楽器の事情から編み出される全体の調性はざっくり言って以下のようなものになる。弦楽器が鳴りやすい調では最大派閥の弦楽器がたっぷりとした倍音で鳴るのでオーケストラの響きの豊かさが確保される。チャイコフスキー バイオリン協奏曲 ニ長調(D maj)など。

一方、木管楽器が鳴りやすい調では、木管楽器の色彩や細かいパッセージを活かした色彩感のある響きを得られる。有名なクラリネットポルカ変ロ長調(Bb maj)。

そして、金管楽器が鳴りやすい調はファンファーレのような圧倒的なパワーが出せる。ホルスト 組曲‹惑星›より木星 変ホ長調(Eb maj)など。

更に、フラットが多すぎて多くの楽器ではくすんだ音になる変ニ長調(Db maj)は、ピアノでは黒鍵が多くて弾きやすく、ショパンの子犬のワルツやドビュッシーの月の光などの名曲がある。変ニ長調のくすんだ響きを逆にとってオーケストラに使った曲としてドヴォルザークの「家路」(交響曲9番第2楽章)が挙げられているが、個人的にはジャズスタンダードのNica’s Dream (Horace Silver作曲) なんかもそうじゃないかと思う。

 

その他、純正律平均律の違い、平均律がいかに合理的か(平均律はどの調でも使いやすい分、所々小さなずれが多いが、現代はビブラートもするし、メリットがデメリットを上回ること)、日本の陽旋法「かごめかごめ」と陰旋法「さくらさくら」の記述、巻末付録の「それぞれの調性の特徴と名曲」、音楽家(ムジクス)と楽士(カントル)などの話も面白い。

 

しかしながら、多くの人が退屈しないよう分かりやすく書いているため、その分原理的な説明はあまりなく、ある程度知識や興味のある人が読むと「ここで説明終わらせるの?逆にわかりにくくない?」という印象を受けるかもしれない。例えば、純正律平均律の原理は説明するのに、同列で比較として上げたピタゴラス音律については原理の説明は全く無い。純正律の説明までしたのならついでに説明すれば良いのに…と思ってしまうが、きっとベストセラーになるためには面倒くさい話は要らないのだろう。

 

また、量としては少ないが感覚的で主観的な話もあり、調性に色を感じる(共感覚というやつ)音楽家の話として「ヘ長調は緑、ト長調が青、ハ長調は赤…」という話があったり、「天体の音楽」として太陽を中心に惑星が並ぶ様子を音階にたとえてみたり、作者が提案する「音量子モデル(未完成)」では原子核を中心に電子が軌道を描く様子を、基音を中心に整数比の軌道を倍音となる音が周回しているモデルが紹介されている。

音量子モデルでは、いわゆるレーザーの原理のような、原子が外部からエネルギーを吸収して励起状態になった後、遷移(エネルギーを放出)して基底状態に戻る様を、次のように例えている。トニカ(ドミソのような安定な和音)の状態にテンションをかけてドミナント(ドファシのような緊張した和音)になった状態から、トニカに戻る際にエネルギーを放出、つまり人間にはっきりとしたハーモニーの変換を感じさせる…らしい。

まず最初の「テンションをかける」ためのエネルギーはどこから来たのか?人間の感覚がエネルギーになるのか?そもそも電子雲として扱うのではなく太陽のまわりを公転する惑星のように扱うのならば、量子モデルではなく中学生向けの原子模型の方が良いんじゃないか?などの疑問が湧いてしまうが、作者は「音楽はどうしても感覚として主観的になってしまうが、それをどこまで科学として客観的にできるか」を目指すべきと考えているそうなので、今は未完でも、今後の研究に期待しよう、ということらしい。

 

最後の方は言いがかりのような感想になってしまったが、全体を通して、分かりやすく調性を語った良書であることは間違いない。

 

 

関連記事(そのうち書きたい):音律と音階の科学 小方厚

本書で省略されたピタゴラス音律などについても詳しく解説された本。

人生に疲れたらスペイン巡礼 小野美由紀

スペインに旅行へ行った時に下調べで読んだ本(結果的には普通のスペイン旅行にはあまり役に立たなかった)。

カトリック大巡礼路の一つ、カミーノ・デ・サンティアゴでの巡礼について書かれている。ヨーロッパはもちろん、様々な国の人がやってくるこの巡礼路。やるべきことはただ一つ、「歩くこと」。100kmから証明書をもらえ、全ルートは800km。ガリシア地方にある大聖堂を目指して、ひたすら歩く。信仰を問わず、誰もに開かれているこの道の醍醐味を語った一冊。

巡礼手帳を持っていれば巡礼路沿いに点在する格安の巡礼宿に泊まれ(なんと一泊5~10ユーロ)、格安で旅を楽しめる。世界中の人々と、巡礼という一つの目的を通じて知り合い、様々な人生観に触れられる。何とも楽しそうなお祭りだ。

 

筆者はブロガーやコラムニストでもあるらしく、写真も多くサクッと読める本になっている。内容は3部構成で、第1章は、なぜ巡礼なの?キリスト教徒じゃなくても大丈夫?英語やスペイン語の準備は必要?などの巡礼の概要、第2章は著者の体験談、第3章はいざ巡礼となった際の旅の準備と、ついでに見て周れるイベントや観光地、現地で食べられる料理などが紹介されている。

中でも情熱が感じられるのは第2章だろう。自称メンヘラの筆者が、会社員時代にパニック障害に陥り通勤電車にも乗れなくなった状態から、巡礼を通してどれだけ救われていったかが書かれている。巡礼の間、色々な人に尋ねられる「あなたはなぜ歩くの?」という問にも最初は答えられなかったが、最後は筆者なりの答えを出す。旅に全ては持っていけない。旅を続けるうちに荷物が減っていき、それでも残った物が本当に自分に必要なもの。

 

筆者がこの巡礼を通して出会った人との名言や、面白い会話を一部紹介する。

自分の家族や人生の悩みを解決していない人間は、たとえ大企業の重役に就いていても「あいつはマオ・レゾルビーダ(未解決の人間)だからな」と言われ、ブラジルでは信頼されない[1]。

サンパウロの大学を卒業し外資系企業でマーケティングの仕事をするエリートブラジル人のマルコスの言葉

会社の同期と競い合って少しでも良い評価をもらうことや、素敵なパートナーに巡り合うこと、そういうことを目指してたどり着いた場所は、自分が望んでいた場所ではなかった。自分が何になりたいかを決めて、それに向かって行動しなければいけない。

―障害者向けのセラピストをするアメリカ人の元証券会社勤務キャリアウーマンのリタとの会話からの筆者の気づき

 

確かに、パニック障害になって仕事をやめて、スペインで巡礼の旅をしたらさぞやドラマティックで充実した人生だろう。しかし多くの人は日々の不満はあっても分かりやすいドン底にはなかなか落ちないし、奇跡的な救いもない。スペイン巡礼に行かなくとも周りに相談できる仲間はいるし、自分が何をしたいかもある程度分かっている。

そういった人には巡礼は必要ないのだろうか?と思ってしまうけれど、それでもスペインの田舎料理とワイン、世界遺産建築や見渡す限りのひまわり畑などの絶景が楽しめるヨーロッパ旅行が一日15ユーロ(2000円弱)で出来るのは大変魅力的だし、巡礼路にも点在する古城や宮殿を国が買い取ってホテルにした「パラドール」にも泊まってみたい。辺り一面のワイン畑をつっきって歩いてみたいし、蛇口を捻ればワインが出て来るイラーチェの修道院[2]も行ってみたい。そう考えると、別に自分探しや人生のリセットという目標がなくとも、普通に面白そうな旅路に思える。

 

そうは言ってもきっかけが無いとなかなか巡礼に行こうとは思わないが、自分もいつか人生に疲れ切ってもうだめだという日が来たら、カミーノ・デ・サンティアゴを巡礼してみようと思った。

 

 

参考文献

[1] 体罰について | 世界1年生 小野美由紀のブログ (この本の筆者のブログです)

http://onomiyuki.com/?p=1979

[2] ワインの泉 イラーチェ修道院  世界遺産 – playsnews

http://playsnews.com/travel/europe/spain/post-2560/

フルーツパーラーにはない果物 瀬那和章

そろそろ運命の人に出会いたい、20代後半メーカー勤務の女性4人の恋模様を書いた小説。

本の帯で「リアルすぎる女心」を謳っているのに作者が男性名義なのが面白い。調べたらライトノベルの作家さんらしい。

 

会社の同期女子4人がフルーツパーラーに集まった時に一人が口にした、「フルーツパーラーにはない果物はなんでしょう?」という問いからストーリーは始まる。

その場では4人とも特に気にしていなかったその一言が、なんとなく頭から離れず、物語が進むにつれ重みを増し、最後には「フルーツパーラーにない果物は…自分だ…」と各自が実感し、ショックを受けるという、分かるような…分からないような…そんな話になっている。

 

その集まりでは、アプリを使った簡単なフルーツ占いもし、四者四様の結果が出る。

「イチゴになりたかったわけじゃない」すぐに恋人は出来るけど3ヶ月で飽きられる合コンクイーン、沢村。モテるための努力もするけど、それがアダになり個性が出せず、強烈な個性を持つマンゴーのような女に彼氏を奪われてしまう。そんな彼女は「とちおとめ」とか「あまおう」のようなブランド名がついていない、ただのイチゴに自分を重ねる。

「気がつくとレモン」周りに気を使ってお笑いキャラに徹してしまうぽっちゃり女子、森口。合コンに行っても、男性のメンツより場の盛り上がりを気にしてしまう。相手に好かれたい、相手を好きになりたいではなく、どれだけ笑わせられるか、というモチベーションで参加してしまう。そんな彼女は紅茶に酸味を与え、唐揚げの油っこさを抑え、ムニエルの下に敷かれる、メインにはなれない果物、レモンに自分を重ねる。

そのほかパイナップルやピーチも登場するが、この二人はあらすじを書いても面白くないので割愛する。(物語として一番強烈なのはお嬢様のピーチである。)

 

「こうしなくちゃいけない」という強迫観念のようなものに取り憑かれて自分が出せず、それぞれがお互いを羨ましく思いながら悶々と生きていた4人の女子が、最後には自分は自分の生き方でしか生きられないことを悟り、最終的に前を向いて生きていく様子が描かれている。

あらすじだけで言えば書店で人気の自己啓発本の類に近いかもしれないが、リアルな人情を感じる描写が多く、充分読める仕上がりになっている。「リスクを避けて生きてきたら理系大学を修士で出て大企業のメーカーに入っていた」なんて自己紹介はああそうだよなぁと非常に共感できる。思わず先週金曜ロードショーで放映された「耳をすませば」で主人公 雫に対してお父さんが言ったセリフを思い出します。

「よし雫、自分の信じる通りやってごらん。人と違う生き方はそりなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにもできないからね。」

雫は作家になるという夢に向かって、目の前の困難にぶつかっていく。

大企業メーカー勤務はこれの正反対の生き方と言っても良い。おそらく多くのメーカー勤務の理系達は、みんなが大学や大学院まで行くから自分も進学するんだろうなと思いつつ進学し、学科で就職実績のある、待遇が良さそうである程度やり甲斐もありそうな企業に入社する。その過程でアカデミックの研究やバンドでは食っていけないという挫折や気付きもきっとあっただろう。人生の分かれ道の時々でリスクの少ない選択肢を選んでいたら、気づいたらその会社に居たという状況。子供の頃からその会社に入りたかったという人が一体どれほどいるかというとほぼゼロなんじゃないか。

 

君に届け」や「青空エール」のようなまぶしすぎる十代の青春は読む気になれないけれど、なんとなく甘酸っぱい恋愛小説が読みたい時にはお薦めできる一冊だと思う。

こんな街に「家」を買ってはいけない 牧野知弘

いわゆる読者の不安を煽る系の本。

まだ家を買うつもりもないけれど、下記の本の帯が目についたので読んでみた。

  • 東京などへの通勤に1時間以上
  • 駅からバスを利用する
  • 住宅地内の傾斜がきつい
  • 1970~80年代に開発された

 

帯にある通り、本書では上記の条件に当てはまる地域の住宅は資産価値の下落が著しいという内容がメインで語られている。これらの住宅は、高度経済成長期にいわゆるニュータウンとして開発された当時の新築を、子育て世代が高値で買ったものだが、40年経った現在では20%程度の価値でしかリセールできないこともあるそう。

かつて日本では、人口の増加と都市部への人口移動は右肩上がりであり、住宅の需要は増える一方で、「今家を買わなければ一生買えない」とされていた。そのため通勤に片道1時間半かける人も珍しくなかったようだ。具体的には、日本の生産年齢(15~64歳)人口は1990年をピークとし、人口は2010年頃まで増え続けていること[1]、またここ30年に渡って毎年10万人規模の人が東京へ移住しているデータなどが示されている。

しかし、人口が減少傾向にあり不動産の価値が上がる見込みもない現在、郊外のニュータウンに移り住む人はおらず、必然的に1970~80年頃に移り住んだ世代が取り残されることになる。当時子育て世代として新築を購入した30~40代も、今は70~80代。

 

かつて家を出て駅に出て電車に乗り降りするのは夫だけで、妻の多くは専業主婦で基本的には家から出なかった。そのためどの駅からも徒歩や自転車で来られる中心に店舗が立ち並び、毎日住民達が買い物に来ていた。ところが、ここで育った子どもたちは都心の会社に勤め、都心部の住宅地で家庭を築き、もうこの地には帰ってこない。若い頃は気風も良かった商店主達も、住民と共に高齢化し、店主の引退と共に店仕舞い。元気に買い物に出ていた専業主婦も近くのスーパーに車で出かけて食材を調達するようになる。ところが、今度はその専業主婦達が後期高齢者の時代を迎えると、車が無ければ買い物にも行けないが、高齢のため運転が厳しい。そんな住民が増えると近隣の商業施設は閉鎖され、さらに暮らしにくくなる。子供の数も減少し、学校は廃校、子育て世代が生活できなくなり、ますます街は高齢化が進む。

 

また、こうしたニュータウンの住宅は、親世代からすれば高値で買ったのだから資産として相続してほしいと思うものだが、子供からすると維持費もかかり面倒の元となってしまう可能性がある。

マンションでは月々の共益費がかかり、他の住民の滞納問題もある[2]。

戸建ての住宅では固定資産税を払い、修繕費を積み立てる必要がある。定期的に水道を流し、風を通すなどの管理も必要だ。空き家率が30%を超えるような地域では空き家にしておくだけで犯罪の温床になる危険もあり、かと言って解体を頼むなら約150万円程度の費用がかかり、更に住宅が建っていれば固定資産税はが6分の1になる減免措置が適用されたのに、安易に更地にすると税金がかさんでしまう(実際は雑種地などに申請して3割程度の減額を受けることも可能なようだ)。

 

ある時期に一気に開発された住宅地には同じような世代が住んでいて、その世代が老いる頃には街も荒廃していくというのは、冷静に考えれば当然である。本書は要するに、住宅を絶対的に価値のある資産として信用することはバブル期の古い常識であり、株や金融商品と同様に常に資産価値の増減が有ることを考慮にいれるべきという、極めて当然のことを言っている。ニュータウンのように一気に人気が高まった地域は下落が激しいし、人口が減少の一途をたどる田舎では住宅の価値も緩やかに単調減少していく。

 

現在日本では8軒に1軒が空き家。住宅の供給過剰により、そもそも住宅全般は資産価値が下落していく中で、せめてどのような所に住めば良いのか。この問いに、筆者なりの解がちゃんと示されていて好感が持てた。

  • 新陳代謝が激しい(移り住んでくる人もいる)街に住む
  • 子供が相続する頃には住宅の資産価値は無いものと思って住宅を買う

詳しくは説明しないが、大まかに上記のようなことが書かれていた。その他、相続をする時は相続人を1人にして揉めないようにする、土地が売れない時はダメ元でお隣さんに打診してみる(いわゆる「隣の土地は倍出しても買え」というやつ)、などの小手先の技が紹介されている。

 つまらないまとめではあるが、資産運用においては何をするにも新陳代謝、持続可能性、早期再建が重要となるらしい。

 

参考文献

[1] 日本の人口の推移 - 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf

[2] 「持ち家」リスクを甘く見ている人が招く不幸 – 東洋経済オンライン
http://toyokeizai.net/articles/-/154728